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第97話

堅は弥生のオフィスにかなり長い間滞在してから出てきた。

出てきたところで、ちょうどオフィスを出たばかりの瑛介と奈々に出くわした。

堅の姿を見た瞬間、瑛介の目は鋭くなり、その全身から冷たいオーラが漂い、不機嫌そうに彼を見つめた。

それに気づいた奈々は、少し考えながら言った。

「江口さんって、弥生ととても仲が良いみたいね。確か数日前も二人で一緒に食事に行っていたんじゃない?」

その言葉を聞いた瑛介は眉をひそめ、薄い唇を平たく結んだまま答えなかった。

しかし、奈々は彼の感情に気づかないふりをして続けた。

「よく考えてみれば、彼は弥生にとても親切よね。家が破産した後、皆が弥生を避けていたのに、彼だけは弥生と一緒に会社に入って、今でも彼女と交流を続けているわ。昔、彼女のお父さんが江口さんを婿として育てているって噂をよく耳にしたけど、それが冗談じゃなかったのかもしれないわ」

ここで奈々は話を止め、それ以上言わなかった。

これで十分だ。彼女は弥生の側から働きかけられないから、瑛介の側から揺さぶりをかけるしかない。

案の定、彼女が話し終えた時、瑛介の顔はすでに真っ暗で、彼女の言葉を完全に聞き入れていた。

しかし、奈々は心の中で少しも喜んでいなかった。

瑛介のこの反応は、彼女の予測や制御を完全に超えており、彼に弥生が妊娠していることを知らせるのが怖い理由でもあった。

どうやら、いくつかのことはもっと早く進める必要がありそうだ。

---

瑛介は浴室から出てきたばかりだった。腰にはバスタオルを巻き、上半身は裸のままで、濡れた髪をタオルで拭いていた。

寝室に入ると、灯りがまだついているのに気づいた。

弥生はパソコンを抱え、ベッドに寄りかかって仕事をしていた。

彼女は耳にイヤホンをつけていた。

「うん、その部分をもう一度確認して、修正したら送ってください」

彼女の声は落ち着いており、時折が聞こえ、その後また素早くキーボードを叩く音が続いた。

瑛介はその光景を見て、髪を拭く動作を止めた。彼の心には何とも言えない感情が湧き上がってきた。

弥生が電話を切って静かになったのを見計らって、瑛介は彼女に近づいた。

「仕事は昼間に片付けられないのか?」

その言葉を聞いた弥生は顔を上げることなく答えた。

「昼間に終わらなかったの」

だから仕方なく残業
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